その日、何かが私のなかでぷつりときれた。きっかけは、前の日彼に送ったなんでもないメールであったのだが、その、なんでもない日常、返信しなくてもいいような内容およびメールの送り主に優劣をつける彼に気付いたとき、わたしの中で何かがきれた。そして、わたしは怒った。何をそこまで、と人々をひかせる程怒った。それは、いまだかつてない種類の怒りであった。

まず、奴は携帯を2台もっている。2台目は言うまでもなく「女子用」であるわけだが、そんなことはどうでもいい。どこかの軽い女とハートの絵文字を乱用したメールのやり取りして飯食ってホテル行って、って、そんな奴のライフワークなんてどうでもいい。しかし、それは彼の周りを取巻く人たちの優しさという犠牲の上に成り立っている。そのことを知ってて見ないふりするのは、ずるい。人の優しさを取捨選択して、甘えて、利用して、それで彼女いないって嘘ついて女をホテルに連れ込んで「純情な子を傷つけた」と罪悪感に浸る権利は無いだろう。ふざけるな。

要は、彼はここ数ヶ月、私(や彼の中での優先順位が低い人々)にまともにメールを返していないわけで、つまり、それだけのことで、私はこれほどまでに怒っているわけで。

その日、たまたま同期との飲み会に彼がやってきたので、私はいつ彼にどのような言葉で怒りをぶつけるべきか、それとも無視するかをひたすら考えていた。桃カルピスチューハイを3杯飲み終えたそのとき、彼が「ひさしぶりやなー元気してるんかー」と、かつて好きで好きでどうしようもなかった笑顔で話しかけてきたので、とうとう私は言った。私はあなたに猛烈な怒りを覚えていると。せいてんのへきれき、という文字が彼の頭にひらがな表記で浮かんでいたが、そこからはもう止まらなかった。何箇所か言葉を間違えた。でも言った。怒りながらなぜかちょっと泣けた。

彼は、彼なりにとても反省していたと思う。目の前のビールをじっと見つめて無言で私の言葉を聞いていた。帰り際、「俺、女の子にあんなに怒られたの初めてやなあ」と言われた。

うちに帰って、飲み会に来ていた同期に「おつかれさま」とメールを送った。でも彼には送らなかった。代わりに彼氏に電話して「今日、はじめて同期に怒ったよ」と言った。そして「ぜったい浮気しないでね」と言った。当然なんのことかさっぱり分かっていない彼氏に、おまえあほかと言われたけど、私は泣きながら「ねえ、男女の友情って成立するのかな」と続けた。なにそれ、と呆れながらも私の話に付き合ってくれた彼氏に、ありがとうって泣きながら思った。

電話を切る時、彼氏に「でもさ、おまえがそんだけ怒るってことは、それだけそいつのこと好きなんだよなあ」と言われた。その言葉が的確すぎて、返す言葉がみつからなかった。仕方の無いことに、私はまだ彼が好きで、でもきちんと友達の立場で向き合えたことが、嬉しくもあり、そして悲しくもある。