感情の波に、つい押し流されそうになる。声がききたいっておもう。携帯の着信履歴にもう彼の名前はないので、職場フォルダをひらく。でもすぐとじる。で、またひらく。その繰り返し。メールを送れば、たとえそれが数日後になろうとも一応の返事が返ってくるのはわかっている。そして、私にとってはその社交辞令的返信が、いとおしくてたまらないものであることも。でも、わたしは、彼が数多くの女に対して「メールかえすのめんどくせー」と愚痴りながら、きっちりハートマーク満載のメールを作成しているのを目にしてきた。そのことを思うと、メールは送れない。それに、メールを送って数日後に返信があると、返事をあきらめていただけに返信があったことそれ自体を奇跡のように感じてしまう。フルマラソン完走したのかわたし、ってくらいに息がくるしくて、血管の中を血が通っている感覚までわかる。そういうのはもう嫌なんです。本能と理性のせめぎあいなんです。これは戦争なんです。

わたしはまだ彼をひつようとしている。その感情はもうきっと惰性なんだけど、それ程に彼が私にあたえた影響は大きかった。彼にとっては何十人いるうちのひとりでも、わたしにとっては何十年に一度のひとりだった。

残業がおわって会社をでると外はもうまっくらで、心地よい疲労感と達成感がおそってきた。ちょうど、帰るところだったらしき同期の男の子がわたしを見つけて一目散で近づいてくる。「今日、車で来たらよかったわー。そしたらうちまで送っていけたのにー」。この人は、わたしに何をもとめているんだろう。そしてわたしは、なんでこの人じゃだめなんだろう。かんがえてみたけど、全然わからない。でも、このとき、わたしは素直にうれしかったのだ、そのまっすぐな愛情が。だれかに必要とされることのよろこびにふれたようで、泣きたくなったのだ。不覚にも。

だれかを必要とし、そして必要とされること。その奇跡をおもわずにいられない夜。