あいじゃなくてもこいじゃなくても

この世にバレンタインという糞イベントがあってよかったと生まれてはじめて思いました。女友達の前では平気な顔で便秘の相談なんかできてしまうのに、好きな男の人にすきって伝えることは、大変にむずかしいことであるからです。ああ、2月の女子は無敵です。チョコレートという免罪符が、天使のような悪魔の笑顔でわたしの背中をそっと押すのです。

彼女のことを「恋人」と呼ぶ後輩に、私の胸は張り裂けそうに傷んだけれど、がんばるって決めたのです。たとえそれがどんなに無意味なことだとしても、まるで小学生が放課後の運動場でがむしゃらに逆上がりの練習をするように、せいいっぱいかんばってみようって、そうわたしは決めたのです。沈みかけのポートから必死に水をかき出すような私の告白を、後輩はきちんと聞いてくれました。ついさっき私が渡したチョコレートが好きな人の自転車かごに入っている光景に、なんだか泣きそうでした。でも泣きませんでした。言いたいことの消費税分くらいしか伝えられなかったけれど、駅前のやすい詩人が歌っているような「好きな人に好きって伝えることに意味がある」がほんとうならば、わたしは、日本の片隅で暮らすひとりの女子として、それを達成しました。その日は、かみさまにありがとうを言って寝ました。

それが私のバレンタインでした。

すきってきもちはシンプルなのに、そのきもちを取り巻く環境はいろいろと複雑です。でも、明日も会社で好きな人に会えること、好きな人におはようって言えること、好きな人の笑顔が見られる場所にいること、たぶんきっと、わたしはしあわせものです。おしまい!