彼氏と距離をおくことにした。理由はうまく説明できないけど、結局のところ「好きじゃなくなった」ってことなんでしょう。あんなにひとりになるのが怖かったのに、こんなにもひとりが楽だ。でも、あのじめじめとした重くて長い5月、あの時期に彼氏と出会えたことは、私にとって大きな救いだった。私には必要な人だったと、この4ヵ月を美化する目的だけではなく、心からそう思う。文体が過去形になっている時点で距離をおくまでもなく答えは出ているんだろう。それでも、つないだ手の感触やシャツのにおいを思うと、胸が痛む。すごく感謝しているのに、私は何も返してあげられない。

好きだった人と飲みに行った。最低な行為だってことはわかる。でも会いたくて仕方なかった。好きだから会いたいのか、さみしいから会いたいのかはわからん。ただばかのひとつおぼえみたいに「あいたい」っておもった。

帰り道、最低に酔っ払ったわたしが「うちによってく?」と最低なことばを発すると、彼は笑って「いま家にあがったら最低なことしてしまうからやめとく」と言った。そして「さみしいからって誰にでもそういうこと言うなよ」と言った。誰でもいいわけではなかった。最低な私は最低な彼と最低になってしまいたかった。「おれもまじめになったなあ」と笑って彼は去った。決して真面目になったわけでなく、私に興味がないだけだということは分かっていたけど、でも、不思議とすがすがしい気分だった。最低な私を蔑むことなく笑って去った彼の後姿に、ありがとうっておもった。

他には何もいらない。
ほんとうにほしいものは、絶対に手に入らない。