ハローグッバイ

こないだ実家に帰ったとき、帰りの飛行機が窓際だったので、ひたすら窓の外をみていた。海がぐんぐん遠くなっていく様子や、雲にすーっと機体が突入していく感じや、雲を真下に見下ろす不思議な感覚にわくわくしたけど、でも、飛行機が大阪に近づいてきたときの、眼下に広がる夜景、あれは圧巻だった。あまりの美しさに、息をのんだ。いろんなものを飲み込んできらきらと輝くこの都市を、泣きたくなるほど美しいとおもった。わたしはここにいたいんだと、そうおもった。お父さん、お母さん、私はまだ帰れません。

実家での生活は、落ち着くんだけどどこか息苦しくて、それはかつてここに住んでいたときの私を、この家がすべて吸収しているからだと思った。そして、この家にはもう私の部屋はなくて、お父さんのルームランナーとかテレビが置いてあってミニ・トレーニングルームと化していた。その部屋のわずかなスペースに、ふとんを敷いて寝た。天井だけが前と変わらずそこにあった。

久美子に、会った。彼氏とちょっとした遠距離になったので、精神的に非常にきついらしく病的に細い体で「でも遺族年金もらうまでは死ねん」とかわけのわからん強さを発揮していた。彼氏の話と、前にすきだった人の話をした。付き合っている人がいるのに、前の人のことがどうしても忘れられん、と私がこぼすと、久美子は「私だってまだ前の彼氏のことが忘れられんよ、たぶん一生忘れないと思う」と笑って言った。ひきだしの奥に、その人の携帯番号をメモした小さな紙きれが入っていて、もしかしたらもう番号は変わっているかもしれないけど、それでも、その紙切れがある限りまだつながっていると思える、それだけで心が落ち着くんだと言っていた。なんか、勇気がでた。この子は、その弱さによって傷付き、その強さによって自分を追い込み、でもいつかきっと幸せになるだろうとおもった。

久美子が連れてってくれたカフェのシフォンケーキは、ふわふわしてて口中にほわーって紅茶のかおりが広がって、とてもおいしかった。カモミールティーにミルクをたっぷり入れてのんだ。ここに連れてきてくれた久美子に感謝した。ありがとう。また会う日まで。